Paradise Kiss パラダイス・キス(第一部)(學院第一部公式)

主な登場人物
早坂 紫(はやさか ゆかり)
私立清栄学園高等部3年生

小泉 ジョージ(こいずみ じょうじ)
矢澤芸術学院の生徒。ファッションデザイナー志望。
櫻田 実和子(さくらだ みわこ)
矢澤芸術学院の生徒。浩行、嵐とは幼なじみで嵐の恋人。
永瀬 嵐(ながせ あらし)
矢澤芸術学院の生徒。実和子とは幼なじみであり恋人同士でもある。
イザベラ
矢澤芸術学院の生徒。本名は山本大助だが、イザベラと名乗って生活している。
徳盛 浩行(とくもり ひろゆき)
私立清栄学園高等部3年生、紫の同級生で、実和子と嵐の幼なじみ。
麻生 香(あそう かおり)
矢澤芸術学院の生徒。ジョージのライバル。
早坂 保子(はやさか やすこ)
紫の母親。
早坂 卓(はやさか すぐる)
紫の弟。
小泉 雪乃(こいずみ ゆきの)
ジョージの母親。
二階堂 譲一(にかいどう じょういち)
ジョージの父親。
如月 星次(きさらぎ せいじ)
ヘアメイクアップアーティスト。矢澤芸術学院でも教鞭をとっている。
Chapter 1 出会い
早坂紫は、せっぱ詰まった顔つきで人だかりの交差点の最前列に立ち、信号が変わるのを待っていた。手には「大学入試 数学公式180」と書かれた参考書をカバーをつけずに開き、ぶつぶつと公式を唱え続けた。しかし、いくら読んでも覚えられない。頭の中で何度も何でも唱えて、しまいには見ながらところかまわず口に出してみるのに、出したそばから抜け落ちていくのだ。
受験は目の前に迫っているっていうのに、どうしたらいいの?小さい頃から受験、受験で詰め込みすぎて、私の頭の中飽和状態になっちゃっているのかな。紫は焦り出す。
いけない、焦るのと公式をインブットするのを同時になんかできるわけない。紫が参考書を持つ手に力を込めて頭を軽く振ると、長く濡れたような黒髪が、肩の所でしなやかに波打った。髪はしばらく切っていなかった。けれど長いので何となくは収まりがついた。それに美容室なんて言ってる時間が勿体ないと思っていた。あれは時間がたっぷりあって余裕がある人が行く所だと。大通りの両側に数ある有名ヘアサロンを横目で見て、紫はすぐに参考書に喪を戻した。
(P9)
これから塾に行かなくちゃいけない。夜九時語の勉強にあてる。夏に覚えたはずの英単語がほろぼろ抜け落ちているのが、前回の模試に塾を終え、帰宅したらそこから二時間英語の勉強にあてる。夏に覚えたはずの英単語がほろぼろ抜け落ちているのが、前回の模試で発覚した。次の模試までに何とかしなければ。短期集中で詰め込むことに決めた。だから数学の公式を覚える時間は今しかないのだ。
信号はなかなか青にならなかった。紫はすらりと伸びた長い足を軽く折り曲げ、学校指定の黒い革のつま先でアスファルトをせわしく呼いた。制服のミニスカートがひらりと播れる。紺に金ボタンがついたブレザーに赤と茶色のチェックのスカートは、誰もが一目置く有名進学高校、清栄学園の制服だった。紺色のハイソックスとブレザーの開いた胸元にちらりと見える、白いブラウスにつけられたスカートと共布のリボンも、紫は気に入っている。それはファッションといら観点からでは決してなく、胸につけられた清栄学園を表すSの文字が刺編されたエンブレム、これに象徴される偏差値の高さと、自らの置かれた環境の良さ、向上を惜しまない努力の日々、それら全てだった。紫は休日に塾に行く時も必ず制服を着ていった。自慢というより武装だ。生きる意味が、世の中との接点が、分の存在理由が、全てこの制服に集約されている。